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MLR SPECIAL INTERVIEW  スペシャルインタビュー
株式会社カワサキモータースジャパン 代表取締役社長
桐野 英子
バイクの素晴らしさは
自分の素直な欲求のままに
旅を楽しめるところ
2021年10月、あるニュースが日本のモーターサイクルシーンを賑わせました。


「カワサキモータースジャパンの社長に桐野英子氏が就任」

日本が世界に誇る4大モーターサイクルメーカーの国内販売会社として、史上初めての女性社長の誕生。しかも「漢 カワサキ」と称されるほど、硬派でバンカラなイメージの色濃い二輪メーカーということもあり、一層ライダー達の関心を引いたのです。


桐野さんはまだバイクブームの名残のあった1991年に川崎重工業株式会社へ入社し、以来、海外駐在員としてフランスに滞在した8年間も含め、現在まで一貫して「モーターサイクルづくり」に携わってきました。もちろん、桐野さんとモーターサイクルとの付き合いは職業上のものに留まらず、十代の頃からひとりのライダーとしてその魅力に触れてきました。そんな桐野さんに、モーターサイクルとの出会いや、その魅力などについてお話しを伺いました。

――バイクに乗るようになったきっかけを教えてください。

 

私は北海道から上京して東京の大学に通っていたんです。当時流行っていたテニスサークルへ入ったり、仲間と合コンに参加したりと学生っぽく過ごしていたんですけど、何となく合わないなと内心では退屈していたんです。そこで思い立ったのが中型自動二輪免許(普通自動二輪免許)を取得してバイクに乗ることでした。もともと車が好きで四輪免許は持っていたので、学科試験が免除されて短期間で取得できるなら教習所に通ってみようと。

 

――サークル活動の代わりにバイクという選択肢が出るところに時代の空気を感じます。ときは空前のブームといわれた80年代ですもんね。

 

免許取得後、せっせとアルバイトでお金を貯めて手に入れたのがカワサキ GPX250Rというモデルでした。本当は四気筒エンジンを搭載する白い400㏄が欲しくてバイクショップに行ったんですけど、お店の人に勧められたのは黒くて二気筒エンジンで250㏄のGPXだったんです。実は欲しかったバイクとはブランドも違いました(笑)

 

――カワサキとの運命的な出会いだった訳ですね(笑)実際にバイクに乗ってみていかがでしたか?

 

これは他のインタビューでもお話ししているんですけど、楽しいと思えるまでが結構

大変だったんです。二輪の教習は自動車と違って路上教習がないですよね。だからイメージがまったくないまま、いきなり自分のマシンで公道デビューしなければならない。新車整備を終えたGPXをバイクショップから自信満々で引き取ったものの、いざ走り出したらガチガチに緊張して50㏄スクーターに次から次へ抜かれたことは今でもはっきりと覚えています。車とバイクではスピード感がまったく違うことすら知らなかったんですね。私は一生懸命アクセルを開けているつもりなのに速度計の針は時速30㎞を指していて(笑)

 

――どうやって克服されたんでしょうか?

 

少しでもスマートにライディングできるようにと一人で箱根に行ったりしました。ノロノロ走っていると他のドライバーから嫌な顔をされたりするので、女性と分かるようヘルメットから髪を出した方が良いかなとか、色々と試行錯誤していましたね。

 

――いきなり箱根通いですか。最初から自立したライダーだったんですね。

 

そういう自覚はまったくなく、とにかくバイクに乗ることが純粋に楽しくて走り回っていた感じです。学生のときは時間もあったので色々なところに行きましたね。普通自動二輪免許取得から間もなく限定解除もしてカワサキ Z750GPを購入したんですが、それでフェリーで実家のある北海道にも行きましたよ。でも、この北海道ツーリングがまた大変だったんです。帰路のフェリーを下船した直後にマシンのステップが外れて行方不明になってしまい、チェンジペダルを手で操作しながら何とか家に辿り着いて。

 

――今ならロードサービスを呼んでもおかしくないケースです(笑)。非常に逞しいというか、困難に直面しても自力で何とかするという桐野さんのバイタリティを感じるエピソードです。

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MOTHER LAKE RALLYを主催する日本ライダーズフォーラム代表の風間深志と握手を交わす桐野社長。気さくにインタビューに応じていただきました。(第51回 東京モーターサイクルショーにて)
​撮影/小浦雅和
――我々、日本ライダーズフォーラムはMOTHER LAKE RALLYと共にSSTR(サンセット・サンライズ・ツーリングラリー)という、日本最大級のバイクツーリングイベントも主催しているんです。こちらは1万人以上のライダーが参加しているのですが、女性参加者は10パーセントに満たない程度なんです。もっと多くの女性にバイクを楽しんでもらうには何が必要なのでしょうか?

 

とにかくマシンを軽くすることだと思います。やっぱり男性に比べると体格が小さいですし、力も弱いですから。マシンが軽いことの恩恵は走っても止まっても、押しても受けられますからね。他の条件が同じなら軽くて悪いことはひとつもないと思います。


いま、当社に女性の開発ライダーはいないので、代わりに私が女性目線で意見を出すこともあります。例えば従来のカワサキ製品は小柄な女性ライダーにはサイドスタンドが出しにくかったんです。そういったユーザーがあまり考慮されていなかったんですね。ある車種では私から女性のデザイナーにサイドスタンドの設計を依頼したこともあります。彼女はとても熱心に研究を重ね、素晴らしいものに仕上げてくれました。私がいま乗っているNinja 650がそれなんですけど。今後もこういう取り組みは積極的にやっていきたいですね。女性ユーザーが増えれば間違いなく二輪業界の活性化に繋がると思うので。

 

――MOTHER LAKE RALLYというイベントは、女性ライダーに向けた「旅」の提案でもあるんですが、桐野さんにとってのバイク旅の魅力ってどんなところですか?

 

やっぱり自由なところですよね。「何時の電車に乗らないと」とか「何時までにあのお店に行かないと」といった制約から解き放たれて、自分の行きたいところへ、行きたい時間に出かけられる。誰にも迷惑をかけず、自分の素直な欲求のままに旅を楽しめるのが素晴らしいですよね。最初にオートバイでツーリングしたときは「これならどこまでも行ける!」って感激しました。

 

 

――最後になりますが、MOTHER LAKE RALLY2024に参加、あるいは参加しようと思っている女性ライダーへメッセージをいただけますか。ほとんどツーリング経験のないビギナーも多いと思いますが。

 

最近はある程度の年齢になってから二輪免許を取得する方も多いと思います。向こう見ずな若者と違い、分別ある大人だからこそソロツーリングに出かけたり、ツーリングラリーに参加したりといった行為に一層の勇気が必要な側面もあるのではないでしょうか。ぜひそういう方は、まずバイクショップなどが主催するツーリングイベントに参加して自信をつけて欲しいですね。MOTHER LAKE RALLY2024の会場で皆様とお会いできるのを今からすごく楽しみにしています。
​(桐野さんは「MOTHE LAKE RALLY2024」1日目のステージのゲストとして登場予定です)

本文にある通り、ライダーの男女比率は圧倒的に男性が高く、女性ライダーに最適化されたコンテンツの醸成や発展というのは、まだまだこれからというのが実状です。しかし、性別に関わらず誰もが平等に楽しめる環境の整備は、ある趣味が文化として成熟する上で欠かすことのできないプロセスであると、私たち日本ライダーズフォーラムは考えています。この『MOTHER LAKE RALLY2024』を通じ、皆様のモーターサイクルライフがより豊かなものになるよう祈っております。

PROFILE

 

桐野 英子(きりの・えいこ)

東京外国語大学外国語学部を卒業し、1991年4月川崎重工業入社。2001年に仏販売会社のカワサキモータースヨーロッパ フランス支店へ8年間出向。09年からKHI汎用機カンパニー営業本部を経て技術本部に在籍し、圧倒的なパフォーマンスを誇る「Ninja H2」の商品企画を担当した。18年KHIモーターサイクル&エンジンカンパニーマーケティング部の部長に就任し、21年10月から現職。

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